『きみとぼくの壊れた世界』(西尾維新:講談社ノベルス)

きみとぼくの壊れた世界』(西尾維新講談社ノベルス)を読了。


非常に面白かったです。
主人公は、普通の感覚でみると明らかにイカレているのですが
その内面をうまく描写してあります。
破天荒な設定をちゃんと書ききっていて、
登場人物の変態性(しかし狂っているわけではない)を際立たせられているのがいいです。
欠点としては、ミステリであるのに事件自体は面白くなかったということかな。

ミステリではなくキャラクター小説であるという評を受けているようですが
まさに的を射ていてそれが強みであると思いました。

新年から面白いものを読めてちょっと幸せ。


追記。2004/0103/0958。

これだけベタ誉めしたものの一つだけどうしても腑に落ちない点が。
以下激しくネタバレなので反転でどうぞ。


これは僕が(というより読者が)正ヒロインであるところの夜月よりも描写が多い
病院坂に対していい感情を持っていることを利用したトリックであると思うのだが、
後半部でなぜ作者が病院坂に売春を”させた”のか必要性がよくわからない。 
もちろん、作者のねらいとしては
自殺未遂からの一連の流れの中で病院坂の心理を印象付けると共に
読者に病院坂の無気力の理由の一つとして売春ということをインプットするためであるのはわかるのだが。
確かにインパクトはあったし”おっ”とは思ったものの
売春というものの持つインパクトをお手軽に扱ってはいまいか。

そもそも彼女の行動原理は合理的であるはずが、
まさに唐突に売春という話が出てきていて浮くように思える。
職員室からの情報の収集という目的でもなさそうであるし
(その目的もあっただろうがそれだけでコトに及ぶというのは行動原理からすると考えにくい)
いくら彼女が厭世主義であったからといって
彼女の行動原理からすれば考えられないことであると思う。
世界に取り残されたくないという思いからコトに及ぶというのも考えられなくはないが
対人恐怖症になるきっかけなどを考えてみると以下の仮定が見えてくると思う。

結局のところ彼女の行動原理は売春をはじめたあと、もしくは同時に作られたものであるということがいえるのではないか。
なんらかの性的トラウマによって保健室登校児となりコトに及んだという見方が出来そうである。
途中の描写でも小柄な身体に不釣合いな巨乳云々とあり、
そういう性的トラウマがあることを示唆している。

様刻へ特別に心を開いていることの理由は
友達としてなら触らせてあげようかというシーンが伏線になるのだろう。
様刻に心を開いたのは同類の匂いがすることと助けを欲していたことの2点があると思われる。

要約すると、性的暴行を受けたのでやけになって売春などし、厭世主義を身につけ、
そのなかで様刻にかなりの好意を抱き依存するような形になったが、
彼との捜査の中で疑問に打ちあたってしまい、
ふがいなさや様刻に見捨てられる恐怖などを感じて
自殺を図ったということになりそうである。

とりあえず後付けの理由はわかったが
相変わらず必然性はわからない。

この売春云々により病院坂は類型的ヒロインに堕ちてしまった気がする。
浮世のものであった印象の彼女が
いきなりよくあるトラウマを抱えた少女に変化してしまうのは
キャラクタ造形としてももったいないと思う。

キャラクタ関連での安易さをみると
この人の作品の魅力は半減する気がするので
少し残念である。

 

さらに追記。
2004/0103/2230

結局のところこの物語は
シスコンの少年が妹以外のものにも目を向けるようになり
親友の幼馴染と学校の変人と妹の三股をかけるようになるという風に要約されてしまいそう。

あと、今気付いたけれどキャラクター配置がとてもギャルゲー的であると思う。
無気力な主人公に親友に親友の幼馴染に素直な妹に妹に手を出す後輩にちょっと変人に。
流石キャラクタ小説……